オルタナ

ライブと映画

GOATBED"THE DANCE NOT SYNDROME"4.23@心斎橋CLUB DROP

…みなさん曲中って踊ったりしないんですね。弟もあんな感じだし、俺はステージで孤独を感じている…。」(石井秀仁38歳のバースデーイブライブにて)


―――去る12月の独白のワンマンライブから約4ヶ月、"THE DANCE NOT SYNDROME(踊れない症候群)"というなんとも挑発的なタイトルを冠したGOATBED半年ぶりの全国ツアーが始まりました。その大阪と名古屋に行って来たので感想を残しておきます。
 
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私が参加した大阪は今ツアーの5ヶ所目にあたる地だったのですが、2ヶ所目の高崎あたりで喉が負傷してるという石井さんのオフィシャルツイートが入り、今この瞬間に「石井さんの健康が第一」って政党作れば歴代最速与党になれるのでは… と思うほどにTwitterには心配の声が阿鼻叫喚のごとく溢れ返っていました。冗談はさておき、喉の負傷は歌手生命にも関わることだけど、ご本人の今後の人生にも関わることなのでヤバいと感じたら躊躇わずに休んでいただきたいです、本当に。

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さて本題に戻って大阪のライブについてだけど、一言で表現するなら"運動"だったと思う。MCがほとんどない非常にソリッドなライブだったのですが、歌い踊り飛び跳ね時には天女のようにたおやかに舞い、磨き抜かれた妖刀のごとく洗練された色気たっぷりの身のこなしやその華奢な身体のどこからそんなエネルギーが出てくるのかと呆気に取られるくらいパワフルに足を振り下ろすお姿は、ミュージシャンというよりももはや魔界のアスリートでした。そして運動といっても運動会やジムじゃなくて、SASUKEと呼ぶほうがしっくりくるようなそんな激しいステージでした。
会場限定先行発売していたニューアルバムをその日の帰りに買ったので、ライブで演奏された新曲たちを新曲として認識するのに時間が掛かってしまってうまく堪能出来なかったのがこの日一番の後悔だけど、会場で初めて聴いたポイゾナスレッドヘアーでちゃんと照明が赤になってたのでオッとなりました。
赤の照明といえば、久しぶりにホロゴーストが赤のバックライトの中で聴けて嬉しかった。サイレンと見紛うようなあのセンセーショナルな赤色の中にしなやかに浮かび上がる黒いシルエットと序盤の吐息のコンボは下手なグラドルの裸体よりもよっぽどセンシュアルだ。
 
あと印象に残ったのはBUNNY BLADE(スクリーンにプレイボー〇のウサギが映し出されていた)の最後が「バニーバニーバニーバニー、ヴァニッッッ!」という感じでラストのヴァ二の発音がめちゃくちゃロックだったこと。この日イチ"漢"を感じた瞬間でした。
あとは元々ライブで聴くライトニングサンダーボルトの寄せては返す波のようなずっしりした低音を聴くのが大好きなんだけど、今回もやっぱりあぁ綺麗だなと思った。石井さんのほんのり汗ばんだ肌が白いライトの中で鈍い銀色につるりと光っていて、アンドロイドみたいな無機質な美しさを帯びていた。たかだか数メートルしか離れてないはずなのに何億光年も向こうの人みたいに思えて、憧れたり懐かしくなったりと形容しがたい感情に包まれました。ゴートのライブにはポラロイド写真のように頭に焼き付く美しい一瞬が沢山ある。

一番衝撃だったのはDEAD ZEPPGOATBED.officialのツイートにより"お前の母ちゃんデベソ"という珍歌詞が入ることは前々から知ってたんだけど、石井さんのことだし表記はそうでも実際はそうは発音しない芸だろうと思って油断してたら、日本に来て3か月くらいの外国人留学生にもハッキリ聞き取れるくらいクリアな発音で、お前の母ちゃんデベソと歌われてしまいました。あまりにハッキリ言われてしまったので、「そもそもデベソが恥ずかしいものという我々の認識自体が誤りなのでは?」という元々の既成概念を問い直す事態に陥ってしまった。実際曲もカッコよかったし、デべソを歌詞に組み入れてもダメージどころかかえってゴートの居住まいやサウンドのカッコよさが引き立っていてズルいなぁと思った。
それとスリッポンが今日から新しいバージョンになったそうで、旧来よりもイントロの勢いとドラムのドムドム感(何ていうか分からない)が増していて、よりライブ映えする仕様になっていた。「この曲の店舗版のCDでは石垣愛さんにギターを弾いて貰ってるんですが、ドラムは全く(石垣さんに)関係無い人に叩いて貰ってます。勝手に共演させました。」と言ってました。石垣さんに弾いてもらったのがとても嬉しそうだった。

駆け抜けるような一時間とちょっとが過ぎた後、突然「ちょっと待ってて!(ダッ)」と二人とも袖に消えていったので、グッズのTシャツに着替えて出てくるのかな?と脳内であみんを再生しながら大人しく待ってたら、暫くして「あの〜、本編はもう終わったんですよ?」とニヤニヤしながら出て来てかわいかった。その後アンコールを二曲やったあとダブルアンコールに応えてもう一回出て来てくれたんだけど、その時の衣装がアー写でも着用しているあの"漁師の要望を丸無視して作りました"と言わんばかりの例の網目の大きすぎるトップスで、登場した瞬間前方から悲鳴が上がっておりました。後ろの方で見てたから、本気で誰か倒れたのかと思った。網服着用のもとデコラティボを演ったんだけど、近年稀に見る会場の温まり方で途中の手拍子もやってる人がたくさんいた。途中で何か言ってた(聞き取れなかった)けど、客席を見てニコニコしてらしたのでやっぱり演者も盛り上がってるほうが楽しいんだなぁと改めて思いました。

あと、これだからバンギャルは…と言われるのは百も承知で書きますがこの日のメイクが本ッ当に好みだった。角度のあるくっきり太眉にインラインがっつりの囲み目、ダブルラインの位置まで黒々と塗りつぶされた濃いシャドウにシェードの入ったほっそりした頬、ヌーディーなベージュのリップという一見すると落ち着いたメイクで派手なところはほとんど無かったのですが、お顔のパーツの東洋的な薄さとギリシャ彫刻のような西洋的な彫りの深さが互いに活かし合えていて、なんとも言えないエキゾチックな美しさを醸し出してました。くっきり太眉のアー写を初めて見た時、中国の皇帝に3000年に渡って寵愛されてきた高級キョンシーみたいだなと思ったんだけど、今回もそれに近い良い意味で非人間的な神秘さを感じた。

血の匂いを感じさせない人工的な美しさを持つ人が機械的なサウンドに載せてソウルフルかつ繊細に歌い上げるそのコントラストがゴートの持つ魅力の一つなのかな、とぼんやり考えながらまだ肌寒い春空の下、帰路に着きました。
 

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