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オルタナ

ライブと映画

『マイ・マザー』

前から気になっていたグザヴィエ・ドラン監督の作品を初めて観ました。
これまでの作品が軒並み高評価だったのでしょっぱなからかなり高い期待値をもって鑑賞しましたが、期待を裏切らない良さでした。

ざっくり言うと母と息子の軋轢を描いた作品で、こういうテーマ自体はとても古典的なテーマではあるけど、「定番の問題を現代社会向けにリアレンジしてみました!」みたいなダサさや力みが全くなく、終止すっきりと話に入り込むことが出来た。

"反抗する息子とその息子を理解出来ないことに苦しむ母"というステレオタイプな描き方ではなく、両者ともが互いを理解しようと歩み寄っていることや、それゆえに生まれるどうしようもない優しさが膿んでいく様子が丁寧に綴られていて、よくある親子ものとは一味違うなぁと新鮮に感じられた。親子という関係の前に一人の人間として、また男性と女性として互いを見つめているところが良かった。「愛されたい」と「愛されたい」で火花を散らせる構図ではなく、どこまでも「愛したい」と「愛したい」のぶつかり合いだった。
この映画の原題は『I killed my mother』なんだけど、それを知って寺山修二の『田園に死す』をふと思い出した。息子側の感情はあの話にも通ずるところが少しあると思う。

ラストは見る人の解釈によるところが大きいと思うけど、私はこの二人の気持ちは永遠に交わらないと感じたし、それで正解であってほしいと思った。
ユベールとアンナトンがドリッピングで絵を描いて作品を完成させたように、絶対に混ざらず交わらず、重ねて重ねて到達する答えがあってもいいのだと感じた。
それでもやっぱり「今日僕が死んだら?」とそっぽを向いて去っていったユベールの遠く離れていく背中に「明日私も死ぬわ。」と一人ぽつりと答えた母の姿を見て、どんなに形がいびつなものであったとしても母が息子に対して持つ根源的な思いは変わらないことをまざまざと見せつけられた。

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映像は小物や壁に掛ける絵に至るまで綿密に作り込まれていて、ナチュラルながらも絵画のようなシーンが多く見ていて心地よかったです。その洗練された映像の中だからこそ、冷たく火照る水銀のような愛情や焦燥、彩度の低い悲しみがより青々と感じられて一層画面に引きこまれた。

この作品でデビューかつ監督した当時の年齢が19歳という驚きの早熟さが高評価を助長しているようだけど、もしこれが彼の遺作であったとしても変わらず素晴らしい作品だと評価されると思います。やっぱり私は深夜から夜明けにかけてのグラデーションを切り取って映像の中に閉じ込めたような、繊細で鈍い移ろいを丁寧に描く作品が好きだ。

あと音楽の選曲もべらぼうに良くてそこにも感動しました。曲自体もいいんだけど、それを当てるシーンの見事な絶妙さ。作った当時の年齢なんか関係なく良いものは良いと先ほど豪語しましたが、19歳でこれだけ様々なところをここまで高い水準で仕上げられることはやっぱり尊敬するし脱帽ものです。主演も自分でやってるっていうのだから更にびっくり。

総合的にすごく好きなタイプの監督だったので、時間をかけて全作ゆっくりと鑑賞したいです。

 


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