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オルタナ

ライブと映画

『悪童日記』 ※ネタバレあり

映画

上映決定って知った時から絶対に観に行こうと思ってた作品。
理由は単純に双子役の二人が美しかったからというのと、原作の存在を知らなかった無知な私は悪童日記というタイトルにここぞとばかりにコミカルさを見出してしまったからです(「ご近所物語」的な)。けど実際は胃の中で鉄の玉を飼ってるようなずっしりとした重さと冷たさが全編に渡って続くお話でした。

あらすじを簡単に言ってしまえば、意地悪な祖母や不衛生で貧しい環境に負けず二人で力を合わせて困難を乗り越えて生きて行くというありがちなストーリーになってしまうけれど、そういった話にはつきものな正義と悪の対立や、優しさと厳しさの区別、信心の崇高さや背信の罰は描かれていない。あるのはヒューマニズムを度外視して選別される生と死の間の線引きだけ。

印象に残ったのは、待ちに待った母からの手紙を「お母さんの手紙は優しいから心が痛くなる。痛いのは嫌だ。」という理由で燃やして捨ててしまったところ。祖母から心と身体両方への厳しい仕打ちを受けて、互いに殴りあったり罵りあったりして意図的に痛みに慣れないと生きていけなかった少年たちにとっては(劇中で二人はこの痛めつけあいのことを「鍛える」という言葉で表現している)、痛みに耐えて最後まで生き延びることがだけが存在する理由で生きる意味だったんだろうけど、愛情からくる痛みと憎悪からくる痛みを識別する余裕すら与えないこの時代の有り様やはりあまりにも悲しい。

最後、二人は実の父親の死体を文字通り踏み越えて、死ぬよりもつらいという二人が引き離されて別々になることを自ら選択するけれど、”生き延びること”が何よりも重要で尊ぶべきことだと否応なく刷り込まれていた二人にとって、”生きるために死ぬよりもつらいことを選択する”というのは一見とても逆説的なことのように見えるけど、彼らにとっては皮肉でも何でもなく当たり前の決断だったのだろう。

同じ戦時下を題材にした作品でも「戦場のメリークリスマス」や「縞模様のパジャマの少年」は戦争中に生まれる愛を描いた作品だと思うし、多くの戦争作品は戦争中の愛か戦争のむごさを主題に描いたものが多いけど、この作品はどちらでもないと思う。愛というよりはある種呪いとも呼べる血縁の鎖だし、戦争のむごさというよりは生きることのむごさだ。これまでずっと二人のことを「メス犬の子供」と呼んでいたおばあちゃんが一人になった時にボソッと「あたしの孫なのに」って言うシーンがあったり、ユダヤ人が連行されていくシーンがあったりと、もちろん戦争の愛やむごさについても描かれている。けれどそれよりも映画全体に泥のようにじっとりと流れている人々の生への執着心が一番強く胸に迫った。

映像の硬質さや良い意味での無表情さがハネケの映画そっくりだなぁと思ってた観ていたんだけど、あとで調べてみるとどうやらハネケの作品を撮っている映像監督と同じ人だったようです。また一つ趣味が偏りました。

あと、天才的な存在感と強烈なキャラクターで登場時から観客の視線をほしいままにしていたワガママボディ&ソウルのおばあちゃんですが、鑑賞中にマツコ・デラックスに似ていると気付いてから憎めるものも憎めなくなってしまいました。

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