オルタナ

ライブと映画

downy『無題』TOUR10.17@梅田クラブクアトロ

downy"無題"ツアー、2日目の大阪に行って参りました。
昨晩の音圧で受けた火照るような感覚の痺れが取れぬまま、またもや同等の衝撃に飛び込んでいくという希代の向こう見ずさを発揮してきました。

以下、昨日に引き続き感想とちょっとレポートっぽいレポート。
自分の位置の関係か音響の関係かは分からないけど、昨日よりもベースがはっきり聴こえて嬉しかった。心なしロビンさんの声も艶っぽく伸びやかだったような気がします。いつもお美しいお声ですけどね!

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今日も昨日と同じく、三月→酩酊フリークという始まり方でした。確か同じものを24時間前にも観たはずなのに、どうしてこうも身動きが取れなくなるほどのまっさらなショックを受けるのだろう。
この日はこれまでとVJが変わっていたせいもあってか、「苒」が特に印象に残った。いくつかの水のかたまりがたゆんで円くなってスクリーンに広がっていく場面があったんだけど、映像自体は明るい水色と光のつやですっきりと輝いてるのに、どうしようもなく温度が無くて寂しかった。天気の良い日に浅いプールに仰向けになって沈みながら徐々に呼吸を失っていくような感覚で、他人の緩慢な自殺を体験しているようだった。"アイデンティティも空し"と反復するサビの歌詞と、触れたら酸化して手の中でボロボロと崩れ落ちていきそうな美しくて脆いギタのー音色も手伝って、余計に息が浅くなった。死にたくなる音楽は数あれど、こんなにも死にそうになる音楽はそう無い。
カッコ良かったのは「或る夜」。最後の裕さんの超絶速弾きのところと、バックに流れる油彩を塗り重ねたカンバスの映像がぴったり重なって音像というものがクリアに現れるシーンがめちゃくちゃカッコいい。行ったり来たり離れたり重なったりせわしない旋律なのに、裕さんのギターには固い芯が1本真っ直ぐに通ってるから心地よく身体を預けて音を楽しめる。
「黒」「曦ヲ見ヨ!」は昨日も書いたけど何度見てもリズム隊のやってることがわけわからな過ぎて開いた口が塞がらないし、私が口開けてる見てる間に誰かが口に大量の綿を詰め込んだに違いないって思うくらい閉じない。「アナーキーダンス」の秋山さんの刻みを見てると、本当に私と同じ60秒=1分の時間軸の中で生きてるのか疑わしくなる。初めてdownyを見たときから「これは阿修羅像が絶対サポメンにいるタイプのバンドだ…じゃなきゃ手足の数が足りない…」と思ってたし今でもそう思ってるけど、ステージ上で阿修羅像を見つけたことがいまだ無いので秋山さんはやっぱり1人であの恐ろしい手数かつ高次元の変則リズムを叩いてるんですね。たまにVJがスティックに映り込んでピンクだったり黄色だったりプレイに似つかわしくない魔法のステッキみたいな可愛い色になってたんだけど、実際魔法みたいな演奏だしあながち間違いではないな、と後から思いました。

そんな魔法テクの秋山さん、MCでロビンさんから「彼は大阪の八尾出身なんです。八尾のアイドル、ヤオドルです。何か一言!」と紹介されたあと一言「まいど」と言っていたのですが、今までの阿修羅プレイとのギャップもあって私の脳が正常に「まいど」を処理出来ず、一瞬どこか別次元からの呪文のように聞こえてしまいました(結局「まいど」は純粋な意味での「まいど」でした)。秋山さんは非常にナイスキャラな方なので、八尾のゆるキャラ枠をぜひ狙ってほしいなと思います(プレイは全くゆるくないけど)。

「弌」や「葵」、昨日はアンコールでやった「安心」は今日は本編後半での登場でした。「弌」はdownyの好きな曲の5本指に入るくらいなので、音源でもライブでも何度聴いても震えるほどうっとりする。あの深い谷間から吹き付ける風みたく重くて速いベース音がギターで押し込められたあと、”溢れる光は花指の先から”という額縁に入れて飾っておきたいほど美しい言葉に乗ってベースが再開するあの一連の流れが本当に好き。あと、音源だと途中で入るサックスの音がライブでは聴こえないからちょっと不思議な気持ちになるんだけど、オケ流してないから当たり前ですよね。あれが全部生演奏なの何度考えてもすごい。

そして昨日同様「猿の手柄」で幕引きし、本編終了。3人がハケていった最後、一人ステージに残った裕さんがアンプのコードを残響の鳴り止むのを待たぬままにブチッと引き抜いて飄々と去っていく姿のかっこよさに拍手にもいっそう気合いが入る。客の上気した体温とかライブハウス内に漂う熱気はそのままなのに、ステージだけが今までのノイジーな音をぷっつり消して何もなかったかのように澄まして佇んでいるあの空気は本当にクセになる。

で、アンコールの拍手をぼーっとしてたら、ロビンさん再登場。昨日同様またもや会場がリアルにざわ…ざわ…状態に。「昨日浮かれて出てきて1曲やっちゃったからなんかそういう雰囲気なのかと思って…。でも手が痛い(笑)」と。確かにさっきの「猿の手柄」で手のひらを叩きつけてギターを弾いてたのを見て痛そうだなと思っていた。
「みんな、物販買って帰ってね…。そしたら僕たちはお好み焼きを食べて帰れるから…」と切実そうに言っていたのでお好み焼きくらいいくらでも私が焼くよ!という気持ちでいっぱいでした。その後「ちょっと他のメンバー呼んでくるわ!」と裏に戻り、残りの3人を呼び戻して来て演奏したのは「漸」。
演奏前に「何かやってほしいのある?全然決めてないや。」と客席に投げかけてた時によっぽど月宿る善良と叫ぼうと思ったけどぐっと堪えました。今回のツアーでは聴けなかったけど、またいつか聴ける日まで楽しみにとっておきます。

名古屋の演奏は音源の精確な再現という印象を受けたけど、大阪はアレンジや音量の起伏も多くて一つ一つの楽曲の持つ含みの幅広さを感じた。テイスト違いで2日間贅沢に楽しめました。
あと、downyのライブ中の二時間はライブハウスの外の日常の色と温度がみんなに気付かれない程度にちょっとずつ薄まってると思うんだよね。そんなことを真面目に考えてしまうくらい、あの空間には世界中のあらゆる色と温度が集められ濃縮されて、息づいている。

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