オルタナ

ライブと映画

『イヴ・サンローラン』 ※ネタバレあり

予告が発表された時から観たくて観たくてたまらなかった映画。

むかし見た白黒のドキュメンタリー映像の中で、イヴがカメラに向かって「あんまりこっちを映さないでくれ、恥ずかしいんだ。」とつぶやくように言って視線を逸らしては合わせ合わせてはまたすぐ逸らす姿がとても動物的でキュートだったのに対し、彼の作る服の持つ緻密で緊密な美とのギャップに否応なしに心を奪われて、私はその時からイヴ・サンローランのファンになった。

今回良かったのはメゾンの歴史に加えてイヴの恋愛模様も細かく作りこまれていたところかなぁ。彼の恋愛遍歴についてはピエール・ベルジェと色々ありながらも結局最後まで続いた、程度にしか認識してなかったから今回初めて知ることも多くて驚かされることも多々あった。二人の出会いがディオールの葬式だったとか、イヴがカール・ラガーフェルドと愛人を共有していたとか。
YSL公認の映画とあってコレクションシーンに使われてる衣装もすべて本物で、ウエストのしぼりの繊細さやドレスのプリーツのミリ単位の優美さ、パンツの意志的な直線は映像の中であっても目の前にあるかの如くしらじらと美しくて客席でうっとりしてしまった。わたしがサン・ローランで一番大好きなコレクション”Le smoking”が観れたことも本当に嬉しかったし、それだけでも価値のある映像だった。
あと忘れてはならないのが主演のピエール・ニネの熱演。サンローラン自身を生で見たことはもちろん無いけれど、喋り方や仕草はもちろんのこと醸し出す品や身のこなし、指でツンとついただけで崩れ落ちてしまいそうなほど脆くて儚い独特の雰囲気、神経質そうな目つきまで本当にそっくりで彼なしでは成立しえない映画だったと思う。この方、きっとビル・エヴァンスを演ってもきっとドはまりすると思うので今後もしエヴァンスの伝記映画が撮られるようなことがあればぜひ主演をしてほしい。

”天才の苦悩”とか言葉にしてしまえば安っぽくなってしまうけど、イヴの言っていた「僕の幸せな日は一年で二日、コレクションの発表の日しかない。それ以外の日はすべてつらい。」という発言の意味が観終わったあと少しだけ汲み取れたような気がしました。

 

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