オルタナ

ライブと映画

『地獄でなぜ悪い』(2013) ※ネタバレあり

DVDで出てたので借りてきました。
園子温作品は当たり外れというか好き嫌いの差が作品によってものすごいから、いつも一か八か半ば賭けみたいな気持ちで観てるんだけどこれは当たりだった。深夜一人真っ暗な部屋の中で「ンフッ」っというなめこさながらのじめついた笑い声を思わず漏らしてしまうくらいのニヒルなネタから鉄板の笑い、超次元級のネタがこれでもかというくらいにぶっ込んであって最初から最後まで飽きなかったです。

しかし感想として一番に思ったのは、「いやぁこれ役者最高かよ。」ということ。園作品お馴染みのでんでんや神楽坂恵は画面に出てくるだけでジーンズの裏ポケットに入ってる百円玉みたいなそんなホッとする安心感を与えるし、学生時代のファックボンバーズの面々もあぁこういう人たち漫画の中にいたよなぁっていう人々の空想上の既視感を上手に再現していたと思う。國村準は2006年のNHK朝ドラぶりに観たけど、相変わらずちびりそうなくらい怖かった。あれをハマり役と言わずなんと呼ぼう。けどそれより何より今回は、「堤真一ってこんなに面白い役出来る人だったの!?」というその一点にただひたすらに驚きまくっていました。人の顔の筋肉ってあんなに柔軟に動くんですね。堤さんが小顔メソッドの本とか出したら多分店頭予約して3部買う。それくらい表情の変化が凄まじくって面白くって何回笑わされたことか分からない。ナントカ突堤とかいうバス停の文字を見ても堤さんを思い出してしてしまうほどのファンになりました(気持ち悪い)。
存在感っていうとこから見ると星野源の存在感の無さ凄かった。準主役なのにこんなにも影を消せるのか…と新たな可能性を感じた。でもすごく丁度いい存在感の無さだった。もしこれが星野源じゃなくて、もっと顔も演技も濃い役者だったらちょっとくどすぎる映像になってたと思う。これだけ存在感の無さがプラスに働くのも珍しい気がする。ちなみに私は星野源のファンでもアンチでもありません。

内容的なことだと、中盤の堤真一の「奴らはファンタスティックだ。俺たちリアリズムはファンタスティックには負ける!」というセリフがこの映画の全てを体現してると思う。ラストも夢オチならぬ映画オチでしっかりきっちりオトしてくれたので、観終わったあとの何とも言えぬ「してやられた感」が気持ちよかった。
けど園子温ってこれまで原作や元ネタのある映画ばっかり撮ってたのに、実はそういうスタンス(ファンタスティック>リアリズム)だったのかってちょっと意外に感じた。どちらかと言えばリアリズム主義だと思ってたので。
あと全編を通して寺山修司の『書を捨てよ町へ出よう』と通ずるものを感じた。寺山が『書を捨てよ~』で主張しまくってる「映画なんか暗闇の中でしか生きれない!外へ出ろ!外には映画や文学なんかの何百倍もの素晴らしいもので溢れている!」っていうのと、『地獄で~』で言われてる「この映画はお前ひとりを感動させたがってるんだよ。」って言葉は離れているようで実は同義なんだろうなぁと思った。両作品ともラストに出演者がバーッっと出てきて”ハイ、これまで起こったことは全部嘘でした。さぁ、あとはお前の人生だ。”っていうけど、あれはすごく突き放してるような風に見えて実はめちゃくちゃ温かいですよね。映画や文学を栄養ドリンクみたいにして感動を摂取した気になるな。お前の感動はお前でしか作れないんだよ、ってメッセージだろうと私は受け取っています。

こう考えてみると一見コメディでおちゃらけた感じに見えてすごくメッセージ性の強い作品だなと思う。

演出は「エクステ」のイロモノ具合と「冷たい熱帯魚」のスプラッタ具合が最低な高次元さ(誉めてる)で結晶しててこちらも大変素晴らしいです。
これ、映画館で観たかったなぁ。良い作品でした。